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GCDF-Japanに対する期待 筑波大学 特任教授 渡辺三枝子先生

いまや、キャリアに関する支援は、産業界にとどまらず、教育界においても大きな関心事となっている。
流行に伴い、当然のことながら、それを仕事とする職業が誕生している。
ご存知のとおり、キャリア・コンサルタント、キャリア・アドバイザー等、他の国々ではキャリア・カウンセラーの仕事の一部と位置づけられるような機能に特化した資格が日本には生まれ、それらの資格を所持する者も急増している。

カウンセラー教育を専門とする私にとっては、このような日本独自の動きにかなり当惑していることは事実である。「キャリア支援者がカウンセラーほど問題解決志向ではない」とか「企業経験がなければできない。
企業経験があれば誰でもできる。学校教師では果たせない機能だ」等々である。
他人のキャリアに関わることはそんなに簡単なことではないし、非常に責任の重いものであると思われるのである。

こうしたキャリア支援を安易に取り扱う背景には、人間尊重の真の意味と同時にキャリアということば・概念に対する真摯な取り組みがなされていないところに原因があるのではないかと考えるこのごろである。

少々唐突で理解しづらいかもしれないが、キャリアという概念はカウンセリングやカウンセラーと同様、輸入されたものであるという現実に立ち返ってみたい。
つまり、輸入ものであるが故に、その意味することが人によってそれぞれ違うということである。
ある人は、「キャリアとは、労働市場の絶対的価値」であると主張し、またある人は、「キャリアとは、昇進・昇格」「立身出世」「アップすること」、あるいは単に「職歴」だと主張する。
確かに間違いではないが、必要十分な情報ではない。
同様に、「カウンセラー」「カウンセリング」に関しても同じことが言える。
たとえば「カウンセラーとは、一切、自分の考えや意見を表明してはならない」、「カウンセラーは、クライアントに一切、指示してはならない」とか、「面と向かったカウンセリング以外は、カウンセリングではない」、あるいは「個々人の内面をしっかりと(より深く)把握しなければ、それは専門的カウンセリングではない。
それには、専門的技術と相当の時間をかけなければならない」などとよく耳にする。
これらも、確かに誤りではないが、必要十分でもない。  

さらに、それぞれ「キャリア」「カウンセラー」「カウンセリング」という用語が、他の用語と結合されると、事態はますます混乱してくる。
たとえば、「キャリア・ディベロプメント」という用語がある。その日本語訳には、「キャリア開発」を充てていることが多い。
ここで問題になるのは2つで、ひとつは、上記のようなキャリアという言葉の解釈、もうひとつは、ディベロプメントに対する解釈である。
確かに、ディベロプメントには、「開発」という意味がある。
したがって「キャリア開発」という訳・概念は間違ってはいない。
たとえば、「従業員一人ひとりが自分のキャリアを見つめ、自らの考え・行動によって、より自分に適したキャリアを開発していく」ということは、正しいであろうし、そのような機会を企業・団体が従業員に与えていくことは、恐らく良いことであろう。
しかし、キャリアは、常に開発されるだけのものではない。無意識のうちに、あるいは二次的に意識されたものとして、発達していくものでもある。
あるいは「キャリア・カウンセリングとは、クライアントのキャリア上の問題をきっかけに、そのクライアントの内面、パーソナリティを徹底的に見つめ、自己認識することである」という解釈がある。
それも誤りではないだろうが、果たして、それだけが各クライアントが望んでいることに対する最良の対応であろうか。
クライアントの抱えている多くの悩みは、自分のパーソナリティだけに焦点を当てるだけでは、解決できないものであろう。
少なくとも、クライアントの「パーソナリティと所属するコミュニティとの相互関係」に着目しなければならない。

このように、現状では、様々な解釈が世の中にあふれており、「キャリア」を取り巻く環境は、いわばカオスの状態であるといっても過言ではなかろう。
そのカオスに対する一つの回答がこの『GCDF-Japanキャリア・カウンセラー トレーニング・プログラム』である。そのプログラムのもともとのベースは、米国の資格CDF のカリキュラムである。
米国製だから良いというものではないが、キャリア・カウンセラーの教育・訓練において、少なくとも100年近くの歴史があり、上述のようなカオスに対しては、American Counseling Association (ACA)やNational Career Development Association(NCDA)などが、協会としての解釈等を発表している。
そして、CDFのカリキュラムでは、その発表に基づいたそれぞれの用語の解釈が採用されている。その点においては、少なくとも読んでみるだけの価値はあるであろう。米国製だから…、という先入観を持たずに、まずは受容していただきたい。
それから、様々な探究を通じてから決定しても遅くはないであろう。  

いずれにせよ、様々なニーズに応えられうるキャリア・カウンセラーが、今の日本には必要である。
キャリア・カウンセラーがという専門的な立場から他者を援助しようとするためには、自己を見つめる能力と態度が不可欠であることはいうに及ばないが、そのほかにも絶え間ない研鑽、つまり生涯学習の態度が必要であることはいうまでもない。
時には「自分はキャリア・カウンセラーという職業に適しているのか」と、自問自答してみることも必要かもしれない。
そのためにはキャリア・カウンセラーを教育する立場にある者(機関)は絶えず、専門的、倫理的視点から評価しながら、レベルの高い教育体系的な教育内容を開発することが求められることはいうまでもないことである。
2004年9月吉日 東京にて

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