キャリア支援の取り組み事例
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- 【企業内キャリア支援のリアル Case2】株式会社クラレ「面談から研修設計へ 社内外で育てたキャリア支援の仕組み」
面談から研修設計へ
社内外で育てたキャリア支援の仕組み
株式会社クラレ様では、2015年から「キャリアを自分でデザインする研修」と「社内キャリアアドバイザー制度」を軸に、社員の自律的なキャリア開発を支えてきました。キャリアカウンセリング協会(以下、CCA)との連携は、2018年ごろの個別カウンセリングを端緒に、2021年の研修後フォロー面談で本格化。その後は面談にとどまらず、42歳・50歳向け研修の設計・実施へと広がっています。本稿では、クラレがなぜこの取り組みを続けてきたのか、社内外の役割をどう分け、どう磨いてきたのかをたどります。
国家資格キャリアコンサルタント
入社以来研究開発に従事。2022年に国家資格を取得して以降、社内キャリアアドバイザーとして活動している。
※役職は取材時点
クラレがキャリア支援を立ち上げた出発点には、社員が「自分のキャリアを自分で考える」機会の少なさがありました。2015年当時は、会社の中で経験を積み上げることが自然で、自律的なキャリア開発を後押しする仕組みが必要だったといいます。
社会や事業環境が変わり続けるなかで、支援の中身も変化に合わせて更新する必要がありました。クラレがCCAに期待したのは、理論の整理だけでなく、企業の現場でどう支援を進めるかの手掛かりと、社内メンバーが自分の言葉で説明できる設計でした。
関わりは2018年ごろの個別エグゼクティブカウンセリングから始まり、2021年以降は35歳のキャリア研修後フォロー面談を軸に本格化しました。その後、42歳・50歳向け研修の設計・実施、面談後の全体傾向の報告、社内キャリアアドバイザーの認知向上に向けた取り組みへと支援領域が広がっています。
鍛治屋敷様は、管理職に近い層で部下のキャリアに具体的に関わる人が増えてきたと話します。近年の研修後フォロー面談の報告でも、スキル開発を「何を学ぶか」だけでなく「どう活かすか」まで考える視点や、家族との生活や将来まで含めて考える動きが見られました。
2015年に始まったのは、「会社任せ」にしないためのキャリア支援だった
クラレのキャリア支援は、2015年に始まった「キャリアを自分でデザインする研修」と社内キャリアアドバイザー制度が土台です。制度の話だけを聞くと整った仕組みに見えますが、その出発点には、社員一人ひとりにもっと自分のキャリアを自分の言葉で考えてほしい、という切実な問題意識がありました。
鍛治屋敷様:出発点は、社員が自律的にキャリア開発できるようにしたい、という思いでした。裏返せば、当時はまだそうなっていなかったということでもあります。2015年ごろは、新卒で入社して会社の中でキャリアを積んでいくのが自然で、「あなたは何をしたいですか」と聞いても、「会社の指示に従いますよ」という方が少なくありませんでした。だからこそ、自分のキャリアを考える機会そのものを、きちんと作る必要があったんです。
鍛治屋敷様:あると思います。クラレは、創業以来の理念として人を大切にする会社ですし、厳しい局面でも雇用を確保するという考え方がある。そのうえで、単に「雇われている」のではなく、みんなで会社を作っていこうという感覚が強いんですね。実際、研修で価値観を扱うと、「協力」や「協調」が上位に出てくることが多い。そういう土台があるからこそ、キャリア支援も一部の層だけでなく、全社員へ広げていこうという流れになったのだと思います。
近年は社内公募の活発化やキャリア採用の増加も進み、「会社の中で経験を積み上げればよい」という前提だけでは捉えきれない場面も増してきました。だからこそクラレでは、会社の価値観を伝えながらも、最終的には一人ひとりが自律的に考えるための支援が、いっそう重要になっているといいます。
CCAとの連携は、まず「面談」から始まった
CCAとの関わりは、2018年ごろの個別エグゼクティブカウンセリングにはじまり、2021年のアーリーミドル(35歳)層向けキャリアデザイン研修後の受講者及び上司へのフォロー面談で本格化しました。当初のCCAの役割は面談中心で、その後、42歳・50歳向けの研修後面談へと広がっていきます。一方で、社内事情の理解がより重要なアーリーミドル層向けフォロー面談は社内キャリアアドバイザーが担うこととなりました。最初から「全てを外部に任せる発想ではなかった」ことも、この取り組みの特徴です。
鍛治屋敷様:社会や事業環境がどんどん変わっていくなかで、キャリアを考えるための支援内容も、そのままではいけないという議論が社内にありました。変えること自体が目的ではないのですが、会社が変わろうとしているのに、支援の中身だけ昔のままでは合わない。そのときにCCAさんには、理論的な体系がしっかりしていることに加えて、会社の中でキャリア支援をどう進めるか、その手掛かりを持つパートナーとして期待しました。
鍛治屋敷様:私自身、GCDFで学んだことが出発点でしたし、網野先生のクラスでも学んでいました。だから、人となりや考え方がある程度わかっていたんです。そのうえで、社内のキャリアアドバイザーがそれぞれの立場で納得し、説明できるような形で議論できる相手だと感じていました。
外部面談の価値について、鍛治屋敷様は「社内のキャリアアドバイザーと話す時と、社外の方と話す時では、同じテーマでも視点や語り方が違う」と振り返ります。社内の支援者はどうしても会社との関係性を背負いますが、社外の専門家には、そこから少し距離を置いた中立的な対話ができる。その違いが、相談者にとって別の気づきを生む余白になっていたようです。
実際、2025年度の50歳向けキャリアデザイン研修のフォロー面談では、受講者23名に対して、CCAのキャリアアドバイザー3名が1人60分のオンライン面談を実施しています。報告書では個別内容を伏せながら、相談テーマを分類し、「相談者が言っていること」「キャリアコンサルタントが捉えた問題」「面談での変化」という形で全体傾向を整理しており、守秘と実務活用の両立を図る設計になっていました。

面談だけで終わらせず、42歳・50歳の研修を一緒に作り直した
面談を重ねるなかで、クラレとCCAの連携は、研修の設計・実施へと発展していきます。現在はCCAオリジナル研修を実施しており、今年で3年目。42歳向け、50歳向けともに、単なる知識提供ではなく、自分の歩みを振り返り、これからの役割や働き方を考える時間として再設計されてきました。
鍛治屋敷様:私たちは、かなり理屈を大事にするほうなんです。この研修は何のためにあるのか、どんな背景があって、どういう意味があるのか。自分でも納得したいし、誰かに聞かれたときに説明できるようにしたい。社内のキャリアアドバイザーそれぞれが、自分の言葉で答えられることが大切でした。
鍛治屋敷様:すごくはまった感覚がありました。特にマルチサイクルの考え方は、変化している環境に対してキャリア支援の形を探していた私たちにとって、「そうだよね」と自然に入ってきたんです。型を押しつけるのではなく、私たち自身の経験も含めて説明しやすい形になっていたので、みんなで一緒に作っていた感覚がありました。
42歳向け研修では、管理職昇格から数年たった層に向けて、環境変化への向き合い方、自分らしさや持ち味の棚卸し、5年後のありたい姿までを考える構成が組まれています。資料でも、「同年代の仲間」とともにキャリアを振り返り、自分の真にありたい姿や新たな成長の可能性に目を向けることがゴールとして示されています。
50歳向け研修でも、いまの延長線だけではなく、5年後、10年後、さらには61歳以降までを見据えて、自分らしい働き方や生き方を考える流れが設計されています。特徴的なのは、参加者が自分のキャリア曲線や転機を持ち寄り、互いの「らしさ」や持ち味を言葉にして返し合う点です。忙しい日々のなかでは流してしまいがちな自分の歩みを、仲間との対話を通じて見つめ直す。そこにこの研修の核がありました。
制度をつくって終わりではなく、届く形にまで育てていく
クラレがこの取り組みで大切にしてきたのは、制度や研修を整えるだけで終わらせないことです。社内キャリアアドバイザーの認知をどう高めるか、面談で得られた示唆をどう改善につなげるか、さらにその先に、取り組みの意味をどう見える化していくか。運用の細部にまで手をかけながら、少しずつ支援を育ててきました。
鍛治屋敷様:これまでで、キャリアデザイン研修を受けた方は去年時点で2,000人を超えています。ただ、その時に関わった人は社内キャリアアドバイザーの事を覚えていても、それ以外の人にはまだ十分に届いていない。アフターアンケートでも「社内キャリアアドバイザーの存在をもっと宣伝してください」という声が毎回のように出るんです。必要な時に、必要な人に、ちゃんとアクセスできるか。そこはまだ大きな課題だと思っています。
この課題に対し、昼休みを使ったキャリアアドバイザー座談会の開催や、社内イントラでの発信なども試みてきました。ただ、鍛治屋敷様は「見る人しか見ない難しさもある」と率直に語ります。制度があることと、必要なときに思い出してもらえることのあいだには、なお越えるべき壁があるという認識です。
鍛治屋敷様:アーリーミドル層が管理職に近づくなかで、部下との1on1も含めて、部下のキャリアに具体的に関わっている人が増えてきた手応えはあります。もちろん、この取り組みだけの影響ではないと思いますが、以前に比べると、かなり手厚くなっていると感じます。
ただ一方で、それは現場にとって新たな負荷でもあります。だからこそ、ある程度の型や、少し楽に回せるサポートの仕組みも必要だと思っています。
50歳研修のフォロー面談の報告書からも、支援の手応えはうかがえます。面談テーマで最も多かったのは「定年までの働き方」でしたが、一方で「今後のスキルアップ・能力開発」への関心が高まり、面談後には「キャリアを踏まえてスキルを考える」「どう活かすかを意識した学習視点が生まれた」と整理されています。加えて、研修そのものについても、「自分を見つめ直し、将来を考える良い機会になった」「同世代との交流が刺激になった」「家族との今後を話し合いたいと思った」といった声が報告されています。
鍛治屋敷様:2015年から11年やってきた以上、「それでどう変わったのか」はやはり問われます。会社の業績に直接つなげるのは難しいですが、今年からは人事が従業員との面談時に使用するシートに自己評価と上司評価の欄を設けて、推移を見ていこうとしています。続けるだけでなく、少しずつでも見える形にしていきたいですね。
制度を超えて、文化になるキャリア支援
クラレ様の実践が示しているのは、キャリア支援を「研修」や「面談」で完結させず、個人の自己理解を支える場づくりと、支援が組織のなかで循環する仕組みづくりを、一体のものとして積み重ねてこられたことの価値です。
なかでも印象的だったのは、社内支援者と外部専門家の役割を丁寧に切り分けながら、環境変化に応じて支援内容そのものを更新してきた姿勢でした。そこには、個人が経験を意味づけ直し、次の選択を引き受けていくための視点と、その営みを現場で持続可能な形にしていく視点とが、自然に結びついています。実際、面談では「定年までの働き方」への不安が中心にありながらも、今年度は「どのようなスキルを選び、どう活かすか」という、より主体的な問いへと関心が移りつつありました。
キャリア支援を制度にとどめず、文化へと育てていく。その歩みの確かさが、この事例には表れていました。
リクルートグループにて営業職・人材開発・事業企画などを経てCCAに入職。
以来、数多くの法人・企業のキャリア支援施策の企画・推進を支援。
