キャリア支援の取り組み事例
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- 【企業内キャリア支援のリアル Case5】三菱UFJ信託銀行株式会社「キャリア自律は、一人で悩むことではない――人事部とともにつくった「安心して話せる場所」」
キャリア自律は、一人で悩むことではない
――人事部とともにつくった「安心して話せる場所」

MUFGが人的資本経営で掲げる「社員一人ひとりが活き活きと活躍する」姿。それを現場で支える仕組みの一つとして、MUFGの中核をなす三菱UFJ信託銀行は2023年度、グループの人材育成会社であるエム・ユー・トラスト・アップルプランニング株式会社(以下、MAP)に「キャリア相談室」を設置しました。実質約3カ月での立ち上げ、若手社員の相談ニーズを受けた階層別研修・面談への展開、相談員体制の拡充、そして累計600件(2026年10月時点)を超えた面談。立ち上げから運営と相談を担うキャリア相談室長の小倉 潤様(右)と、2026年度から社外相談員として加わったCCAの宮下 優理(左)に、これまでの歩みと今後について伺いました。
エム・ユー・トラスト・アップルプランニング株式会社 取締役研修部長・キャリア相談室長。キャリアコンサルタント。2級キャリアコンサルティング技能士。2023年、三菱UFJ信託銀行のキャリア相談室の立ち上げを担い、以来、相談室の運営に加え、階層別キャリア研修、相談員育成、キャリア相談を一体的に担っている。
※役職は取材時点のものです。
キャリア相談の基本確認と実践への後押し
継続的な力量向上の場づくり
第三者として社員の相談に応える
立ち上げから運営改善までの伴走
まずは社員が「安心して立ち止まれる場」をつくる
小倉様:三菱UFJ信託銀行では以前から、自己申告制度やキャリアチャレンジ、1on1を通じたキャリアに関する対話など、社員一人ひとりがキャリアを考えるための仕組みを整備してきました。一方で、信託銀行として、相続・不動産・資産運用の専門性の高い事業に加え、近年はグローバルに事業展開するなど、社員のキャリアパスも多種多様になっています。また、キャリア採用社員の増加や、若手社員・シニア社員の増加などを背景に、社員のキャリアはますます多様化しています。異動や昇格、ライフイベントなどの節目に、自らのキャリアについて安心して立ち止まり、考え、相談できる場は十分ではありませんでした。人事部内でも、単なる悩み相談ではなく、社員が「キャリアについて考える場」を提供する必要性が高まり、2023年度にキャリア相談室を立ち上げることが決まりました。
小倉様:人事部として、社員が安心して信頼して話せる場所をつくりたいという思いからのスタートでした。そこで、人事部の施策として位置づけながら、人材育成を担うグループ会社であるMAPが業務を受託し、相談室を運営する形としました。守秘義務を徹底するとともに、人事評価や異動判断とは切り離した対話の場であることを分かりやすく示し、「安心して相談できる場所」であり続けることを大切にしています。
小倉様:4月の方針決定を受け、MAPが依頼を受けた7月から本格的な準備を始め、10月に開設しました。どれくらいの社員が、どのような相談で利用するのかは、始めてみないと分からない状況でした。そのため、まずは小さくても早くスタートし、実際のニーズを確認しながら必要な体制を整える方針で進めました。振り返ると、立ち上げ以上に、その後の運営を継続的に改善していくことが重要であり、やりがいのある仕事だと感じています。
小倉様:「悩み」がある時だけではなく、キャリアに関するあらゆることを相談できる場だというメッセージを発信しました。自分の強みや今後の方向性を整理したい、異動や昇格などの節目に考えたい、仕事とライフイベントの両立を考えたい、といった幅広いテーマを対象としています。人事部にも周知活動を支援してもらいながら、社員への浸透を進めてきました。

ふたを開けたら、若手だった――初年度に見えた相談ニーズ
小倉様:スタート時は社外相談員2名と、事務局を担当する私という体制でした。まず社外相談から開始し、相談室の運営を形にし、社内相談員の養成が整ったところで社内相談員2名が加わりました。社内相談員は養成講座で学びながら実践に入る段階でしたので、CCAの研修で養成講座での基本的な学びを企業内での実践にどうつなげるか確認できたことで、社内相談員が安心して面談に臨むための後押しをいただきました。
小倉様:当初は社外相談員への申し込みが多いと想定していましたが、実際には社内相談員へのニーズが高く、スタート時は20代から30代にかけての若手社員から多くの申し込みがありました。キャリア採用入社者からも相談があり、若手社員がキャリアについて対話できる場を求めていることを改めて認識しました。
この傾向を人事部と共有し、どう組み入れるかを検討し、翌年度から若手社員を対象とした階層別研修とキャリア面談へ展開しました。個別相談への対応を通じて、社員層に共通する相談ニーズがありそうなことを把握し、次の施策につなげられたことは大きかったと思います。

研修と面談をつなぐセルフ・キャリアドックへの展開
小倉様:開設後2年目には4年目社員を対象に、翌年度には新任調査役を対象に、階層別キャリア研修と希望者面談を組み合わせた取り組みを段階的に広げました。キャリア相談室が研修を実施し、研修で自分のキャリアについて考えた後、希望者が相談員との面談を受ける、セルフ・キャリアドックの形です。私も研修講師と相談員の両方を担当しています。
いずれの研修でも、受講者の半数を超える社員が面談を希望しました。研修でキャリアについて考える機会を提供し、その後の対話につなげることで、社員が持っていた潜在的な相談ニーズを、実際の支援につなげることができたと考えています。キャリアを考える機会をより実効的なものにできるという手ごたえが得られました。
小倉様:面談件数と相談員が増える中で、相談室を持続的かつ安定的に運営するため、受付や日程調整、相談員への連絡、実績管理などを仕組みとして整える必要性が高まりました。相談の質を守りながら、社員が利用しやすく、相談員も活動しやすい運営基盤を整備してきました。
小倉様:自己理解や仕事理解といったキャリアの本質的なテーマは、どの階層にも共通しています。一方、主に30代前半が多い新任調査役では、仕事上の役割が変化する時期とライフイベントが重なり、仕事と生活の両立をどのように考えるかというテーマが少なくありません。制度や支援策があっても、それを自分の状況にどう結びつけるかは一人ひとり異なります。社内相談員は、その方がどうありたいかを対話の中で整理しながら、会社の制度や職場環境を理解した上で、必要な情報を相談者の状況に合わせて提供する「翻訳者」のような役割も果たせているのではないかと思います。本人が納得してキャリア構築していけるよう支援をしています。
相談員を育て、相談の質を継続的に高める
小倉様:活動が浸透するにつれて相談テーマも多様化・複雑化し、相談員が継続して学ぶ必要性を強く感じるようになりました。CCAのグループスーパービジョンは、実際の支援を振り返り、別の見方や対応の可能性を検討する場になっています。今後も継続し、新任相談員を含めた実践的な学びにつなげたいと考えています。
小倉様:キャリア相談の面談実務の中で、2級キャリアコンサルティング技能士認定を得られたことは、我々の活動への自信にはつながりました。資格取得は一つの到達点ですが、資格だけで相談の質が決まるわけではありません。日々の面談を振り返り、相談員同士で学び合い、必要に応じて外部の専門家から助言を受ける。その循環を組織としてつくることが、質を維持・向上する上で重要だと考えています。
小倉様:社内相談員は、会社の制度や業務を理解し、多様な職務やマネジメントの経験を持つ人材を選定しています。一方で、経験が豊富であるほど、自分の経験から助言したくなることもあります。だからこそ最も大切にしているのは、相手の話を丁寧に聴き、教えるのではなく、相談者自身が考えるプロセスを支援できることです。人事部ともその考え方を共有し、多様な経験を持つ人材を配置しています。

社内と社外、二つの相談先を選べる価値
小倉様:社内相談員には、社内制度や職場環境を理解し、具体的な情報提供も含めて支援できる強みがあります。一方、社外相談員には、社内の関係性や評価から距離を置いた第三者として、客観的に話を聴ける強みがあります。どちらが優れているということではなく、社員が相談テーマや価値観に応じて選べること自体に価値があると考えています。
宮下:最初に相談室の方針や期待する役割について丁寧なガイダンスがあり、安心して担当に入ることができました。業務の専門知識は相談者自身が最もよく知っています。相談者を信頼し、丁寧に伺いながら、現在の状況や選択肢を整理し、本人が納得できる方向を考えることを支援しています。実際にお話を伺うと、自分のキャリアについて真剣に考えている方が多いと感じます。
宮下:守秘義務と独立性を前提としながら、相談者が社内制度や業務に関する情報を必要とする場合には、本人の意思を尊重した上で、社内相談の利用も選択肢として案内します。社内と社外がそれぞれの強みを生かし、相談者から見て相談室全体が一体感を持って機能することが大切だと考えています。

モヤモヤという重しを外すと、人は軽やかに動き出す
小倉様:私自身、30代でのコース転換、部門をまたぐキャリアチェンジなど、いくつかの節目を経験してきました。当時は一見つながらないように見えた経験も、振り返れば現在のキャリア支援につながっています。キャリアの節目では迷うこともありますが、小さなきっかけから自分の言葉が見つかると、次の行動につながります。私自身がそのことを実感してきた経験は、支援の軸の一つになっています。
小倉様:明確な悩みがある時だけでなく、言葉にならないモヤモヤや、将来への漠然とした不安を整理したい時にも利用してほしいと思っています。対話を通じて考えが整理されると、相談者が自分の意思決定に自信を持ち、次の一歩を軽やかに踏み出せることがあります。相談員が答えを与えるのではなく、相談者自身が納得できる言葉や選択肢を見つけることを支援する場です。
宮下:面談を通じて考えが整理されることで、それまで漠然としていた思いや迷いが、ご本人の言葉として表れてくる場面があります。その後、ご自身の意思で次の行動を考えていかれる姿を見ると、キャリア相談の意義を感じます。相談者がもともと持っている力を信頼し、その力が発揮されるプロセスを支援することが、社外相談員としての役割だと考えています。
小倉様:仕事やキャリア、ライフに対する考え方は一人ひとり異なります。「若手」「管理職」「子育て・介護両立中」といった属性だけで一括りにせず、その人が置かれた状況、価値観、これまでの経験を丁寧に見ていくことが大切です。キャリア支援は特定の答えへ導くことではなく、一人ひとりが納得できる選択を支えることだと考えています。

「当たり前にキャリアについて対話する」文化へ
小倉様:現在、階層別の研修・面談は4年目社員と新任調査役の2階層で実施しています。今後は管理職層をはじめ、対象を段階的に広げ、社内の関連部署とも連携しながらシニア層への支援も考えていきたいと思っています。相談件数を増やすこと自体が目的ではありません。より多くの社員がキャリアについて立ち止まり、誰かと対話する経験を持つことで、「キャリアについて考え、相談すること」が当たり前の文化に近づいていけばよいと考えています。
小倉様:経営上もキャリア自律が重要となっています。キャリア相談室は、社員一人ひとりのキャリア形成を支援する場であると同時に、社員の声から組織の課題や可能性を見いだすことができる場にもなっています。もちろん、個々の相談内容や個人が特定される情報を人事部や経営へ共有することはありません。複数の相談から見えてきた傾向や組織的な論点を、匿名化・集約した形で整理し、関係者と共有しています。個人の成長支援と組織の成長支援をつなぐことが、キャリア相談室の大切な役割だと考えています。
小倉様:CCAはキャリアコンサルタントの養成と育成を担う専門機関であり、その専門性に信頼を置いています。また、多様な経験を持つ相談員や専門家から、社内だけでは得にくい視点や助言をいただけることにも価値を感じています。今後も、相談員育成と社員への相談支援の両面で、質を高めるパートナーとして期待しています。
キャリア自律は、一人で悩むことではない
小倉様:私は、キャリア自律とは「自分との対話を通じて、自分が納得できる選択をしていくこと」だと考えています。面談をしていると、キャリア自律を「一人で答えを見つけなければならないこと」と受け止めている社員も少なくありません。そのため、本来活用できるはずの上司や同僚、キャリア相談員、人事制度などの支援リソースを十分に活用できていないケースも見受けられます。
だからこそ、上司や同僚、キャリア相談員、家族などとの対話を通じて、自分自身の考えや価値観を整理していくことが大切です。キャリア自律とは、周囲に頼らず独力で進むことではなく、さまざまな仕事経験で周囲と関わり、さまざまな支援を得ながら成長し、自ら納得できる選択を重ねていくことではないでしょうか。キャリア相談室は、そのために一人一人が自分自身にしっかり向き合う対話の場でありたいと思っています。
小倉様:「安心して話せる場所」です。キャリア相談室の活動を通じて感じるのは、多くの社員が真剣に自身の成長やキャリアについて考えているということです。一方で、日常業務の中では、立ち止まって考えたり、誰かと対話したりする機会を十分に持てていない。だからこそ私たちは、社員が安心して立ち止まり、対話できる場を提供し続けたい。そのような対話が当たり前になれば、キャリア自律は自然と組織に根づいていくと思います。


社員一人ひとりの価値観や働き方が多様化する中で、それぞれが自らのキャリアを描き、成長・活躍できる環境を整えていくことが重要だと考え、MAPへキャリア相談室の設置をお願いしました。今後も人事部とキャリア相談室がそれぞれの役割と専門性を活かしながら連携し、不安なく挑戦できる環境づくりを進めていきたいと思います。
(参考)MUFGの人的資本経営
キャリア相談室が社員に使われ続けるかどうかは、三つの条件で決まると考えています。何を相談してよいかが伝わっていること。評価や異動の判断から切り離された安心があること。そして、相談員が学び続けていることです。
三菱UFJ信託銀行は、この三つを設計の段階から押さえていました。入口を「キャリアに関するあらゆること」と広く示し、人事部の施策としてグループの人材育成会社が運営する。社内と社外の相談先を併設し、教えるのではなく考えるプロセスを支える相談員を育て続ける。さらに、初年度に見えた若手社員のニーズを、翌年度には階層別研修と面談へと展開しています。個別の相談から見えた傾向を匿名化・集約し、次の施策に生かす。この往復が、相談室を一人ひとりを支える場であると同時に、組織の論点が見えてくる場にしています。
キャリア自律とは、一人で答えを出すことではなく、周囲の支援を生かしながら納得できる選択を重ねていくこと。組織がこの考え方を引き受けたとき、相談室は「安心して話せる場所」になるのだと思います。
キャリアコンサルタント。1級キャリアコンサルティング技能士、CCA認定スーパーバイザー、GCDF-Japanキャリアカウンセラー。外資系SIerを退職後、2005年にGCDFの資格を取得。主に社会人を対象としたカウンセリングを行っている。キャリアの他、DE&I推進や組織開発等の企業研修の講師としても活動。
CCA事業企画グループ マネージャー。リクルートグループにて営業職・人材開発・事業企画などを経てCCAに入職。以来、法人・企業のキャリア支援施策の企画・推進を支援。
