インタビュー
修了生インタビュー
馬場洋介
帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科 研究科長・教授/日本キャリア・カウンセリング学会 会長
60歳の自分を想像したら、学生に囲まれていた
ビジネスの世界から大学院研究科長へ、キャリアの転換点にGCDFがあった

帝京平成大学大学院臨床心理学研究科で研究科長を務める馬場洋介さん。大手情報会社で新規メディアの立ち上げなどに携わったのち、40代でキャリアカウンセラー・臨床心理士としての道を歩み始め、再就職支援の現場を経て大学教員に転身しました。現在は日本キャリア・カウンセリング学会の会長として「キャリア・カウンセリングを社会のインフラに」を掲げています。その歩みの起点には、2007年に学んだGCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム(以下、GCDF養成講座)がありました。本記事では、馬場さんの歩みと実践を通して、GCDFの学びが、社会にどう実装されているのかについて迫ります。
事業の立ち上げの先で見えた、「人」への関心
初職では管理職として新規事業の立ち上げに携わっていらっしゃいました。キャリアの領域に関心が向かったのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか。
馬場さん:新規事業には、ネーミングや組織づくりの段階から関わっていて、事業としては順調に進んでいました。ただし、立ち上げの時期は楽しいのですが、事業が安定してくると、仕事の中心は媒体の売上や件数を伸ばすことになっていきます。私は、そこにあまり興味が持てなくなってきたんです。改めて自分を振り返ったとき、自分が本当に興味があるのは、人の育成やマネジメントといった「人」に関わることだと、はっきり意識するようになりました。それで、自分の進路をどうしようかと考え始めたわけです。

ロールモデルとの一時間で、進路が決まった
そこから「カウンセラー」という方向性は、どのように見えてきたのですか。
馬場さん:当時、会社にはコーチング研修があって、コーチを選んでセッションを受けられたんです。その中に、将来のキャリアを扱うセッションがありました。「60歳のときの自分をイメージしてください」と言われて浮かんできたのが、学生に囲まれている自分の姿だったんです。大学教員という道のイメージは、このとき生まれました。
同じセッションの中で、人への関心を掘り下げていくと、「カウンセラー」というキーワードも出てきました。そのとき顔が浮かんだのが、カウンセラーの道に進んでいた2人の後輩です。1人は先に臨床心理士になっていました。コーチから「2人に会ってみたら」と勧められて話を聞くと、2人が口を揃えて「会うべき人」として同じ名前を挙げたんです。それが廣川先生(※)でした。
廣川先生とお会いになって、いかがでしたか。
馬場さん:御茶ノ水駅の近くのカフェで、雨の日に1時間ほどお会いしたのを今でも覚えています。廣川先生ご自身が、企業にお勤めになったあと、カウンセラーになり、大学教員としても活動されている方でした。「企業でのキャリア」「カウンセラーへの関心」「大学教員のイメージ」......。それまで自分の中でバラバラだった3つが、廣川先生の話を聞いて一本につながったんです。ロールモデルに出会えた。この1時間で自分の進路が決まった、と言っていいと思います。カウンセラーになろう、そしていずれは大学教員に、と。
※廣川進氏:法政大学キャリアデザイン学部教授。臨床心理士・公認心理師。日本キャリア・カウンセリング学会前会長。企業勤務を経てカウンセラー・大学教員に転じ、メンタルヘルスとキャリアの統合的支援を研究・実践している。(本記事の馬場さんは同学会の現会長として、廣川氏の後任にあたる)
メンタルとキャリア、両軸で学ぶと決めた
2007年にGCDF養成講座を受講され、同時期に産業カウンセラーの学び、さらに大学院での臨床心理の学びも始めていらっしゃいます。なぜ「同時に」だったのでしょうか。
馬場さん:まず、自分のキャリアをちゃんと考えたい、という思いがありました。キャリアカウンセラーとしての第一号のクライアントは、私自身だったということです。
それから、働く人を支えるにはメンタル面の理解が欠かせない、という実感がありました。私自身、キャリアのことで本当に悩んだわけです。だからメンタルとキャリア、両方を学ぶ必要がある。産業カウンセラーを学び、キャリアもきちんと学ぶ。廣川先生がメンタルとキャリアの統合を体現されていましたから、その視点を受け継いだという感覚もあります。
勤務先でも、ちょうど新規事業の部署から人事部に異動して、メンタルヘルス体制の構築を担当するタイミングでした。夜間の大学院に通いながら、資格の学びと実務が同時に動いていた。あの1、2年は、キャリアチェンジの準備に集中した時期でしたね。

GCDF講座で得たもの――キャリアの多様性と、自分の軸
3か月の講座の中で、印象に残っていることはありますか。
馬場さん:授業の中身もさることながら、一緒に学んだ仲間の存在が大きかったですね。私はずっと一社で来ましたから、いろいろな働き方、いろいろな仕事、キャリアへのいろいろな思いを持つ人たちと出会って、キャリアの多様性、価値観の多様性というものを、受講生の多様性の中で体感したんです。
講座のあとに飲みに行って語り合うと、大学教員になりたい人、研修講師をやりたい人と、それぞれがキャリアを模索している。その中で、自分自身のキャリアも考えていました。資格を取りながら、自分のキャリアを見つめ直していた。それが最初の大きな収穫でした。
グループワークなどを通じて、ご自身について新しく気づいたことはありましたか。
馬場さん:受講生には、カウンセラー志向の「人」への軸が強い方が多かったのですが、自分には、事業の立ち上げや採用に携わってきた経験、中小企業診断士としての学びも含めて、「組織へのコンサルテーション」という軸が確かにある、と気づきました。人と会うとき、その人の背景にある組織がどうなっているのかを必ず考える。これは今も自分の特徴だと思います。
産業領域では、ストレスチェックの集団分析のように組織へのアプローチが求められますが、支援者の目は個人にばかり向きがちです。個人と組織の両方を見る視点は、企業での経験があったからこそだと思います。
トレーニングとしては、いかがでしたか。
馬場さん:ヘルピングの技術は徹底的に学びましたね。一言一句というくらい、逐語記録をとりながら、自分の応答の癖や、傾聴ができていないところに気づかされる。自分をさらけ出しながら自己理解を深める経験があったからこそ、キャリアコンサルティングの重要性を体感的に学べたのだと思います。理論の枠組みが分かりやすく示されていて、キャリアコンサルタントの役割と機能が明確になるプログラムでしたし、メンタルヘルスについてもきちんと学びました。
再就職支援の現場で、統合を実践する
その後、再就職支援の現場に移られます。
馬場さん:人事部では、産業医の招聘やEAPとの契約といったメンタルヘルス体制の構築を担当していましたが、自分としては、カウンセラーとして現場に立ちたいという思いがありました。そんな中で、リーマン・ショック後に再就職支援の現場で人が足りなくなり、グループの再就職支援会社に移ることになったんです。
そこで大きかったのは、廣川先生が失業者のカウンセリングについての本を書かれていて、失業者にはメンタル面のサポートとキャリアのサポートの両方が必要だ、という視点を持って現場に立てたことです。臨床心理士の資格も持っていましたから、メンタル面の課題を抱える方の支援が少しずつ私に集まるようになり、社内にそうした支援体制をつくることも提案しました。
働きながら、博士課程にも進まれています。
馬場さん:博士課程には5年間通いました。博士論文のテーマは、まさに再就職支援です。実際に再就職活動をしている方にインタビューし、分析する。自分のやっている仕事を、そのまま研究テーマにするという形で、実務と研究を往復しながら学位を取りました。
並行して大学の非常勤講師も始めていました。心理学の授業で自分の経験を学生に伝えると、反応が返ってくる。その手応えが、少しずつ自分を大学教員の方向へスライドさせていきました。

東日本唯一の臨床心理分野専門職大学院で
帝京平成大学に移られた経緯を教えてください。
馬場さん:博士号を取ると、大学から声がかかるようになります。ただ、大学教員の採用では研究実績が重視されますから、簡単ではありませんでした。今の大学院は臨床心理士を養成する専門職大学院で、東日本では唯一、全国でも数校しかありません。実務の経験が評価される場だったことが大きかったですね。
実は再就職支援のクライアントの中に、一般企業から大学教員への転身を支援した方が3人いるんです。私自身が経験のない領域を、逆にクライアントに教えてもらいながら一緒に伴走した。その経験も、自分の転身を身近なものにしてくれました。
着任後は、研究科長として運営にも携わっていらっしゃいます。
馬場さん:着任して8年ほどになりますが、4年ほど前から研究科長を務めています。研究実績の厚い研究者ではない私が研究科長を務めているのは、マネジメントができるからだと思っています。運営はかなり民間企業に近いですね。毎週会議をして、課題はおおむね1週間以内に解決していく。PDCAを速く回す。教員とは1on1の面談をし、委員会活動の分担も平準化して見える化する。過去のマネジメント経験が、そのまま生きています。
入学希望者を増やすための改革では、誰に受けてもらうかを考え直しました。臨床心理系の大学院予備校に直接働きかけるなどして、社会人の方に多く応募していただけるようになり、今は入学者の7割ほどが社会人で、倍率も大きく上がりました。まさにビジネスで培ってきたマーケティングの考え方が役に立っています。
修了生の就職支援はいかがですか。
馬場さん:ここは、まさにキャリアカウンセラーの仕事です。心理職の就職は専門性が高く、学部生向けの就職支援では手が届きにくい。そこで履歴書・職務経歴書に加えて「実習経歴書」を作ってもらい、大学院時代の実習経験を詳しく言語化してもらいます。何のためにスクールカウンセラーになるのか、何のために医療機関で働くのか。その仕事を選ぶ「意味づけ」まで掘り下げたうえで、面接対策も手厚く行う。カウンセラーは人の話を聴く訓練はしていても、自分をアピールする訓練はしていないんですよ。そこを支援するようになって、学生が自分の望む進路に進めるようになってきました。
学会長として――キャリア・カウンセリングを社会のインフラに
日本キャリア・カウンセリング学会では、会長を務めていらっしゃいます。
馬場さん:学会には以前から入っていましたが、8年ほど前に運営側に加わり、理事としてブランディング委員会を立ち上げました。ミッションは、学会名を変えることです。会員へのアンケートやインタビューを重ねて改名のプロジェクトを進め、その後、副会長、会長という流れです。
改名には、様々な議論もあったのではないですか。
馬場さん:ありました。特に「キャリアカウンセリング」とひと続きにするか、「キャリア」と「カウンセリング」を分けるかは、大きな議論になりました。行き着いたのは、私たちはキャリアとカウンセリングの両方を大事にする学会だ、ということです。カウンセリングの中にはメンタルも含まれます。ひと続きにしてしまうと、キャリアカウンセリングという技法を扱う学会になってしまう。キャリアを深め、カウンセリングを深める。キャリアもカウンセリングも両方深めるという意味で、間に「・」を入れるということで落ち着きました。
改名によって、福祉や学校など参加する領域が広がり、発表の内容も変わってきました。企業領域を深める委員会を新たにつくり、実践者が研究に踏み出すことを後押しする研究助成も始めました。キャリア・カウンセリングを社会のインフラにしていきたい。会長として目指してきたのは、その裾野を広げることです。

職場復帰支援の領域に、キャリアの視点を入れる
現在も、臨床の現場をお持ちだそうですね。
馬場さん:職場復帰支援、いわゆるリワークの現場に10年ほど関わっています。休職中の方が復職していくプロセスは、仕事を失った方が仕事を得ていく再就職のプロセスと、とてもよく似ているんです。ところがリワークには、これまでキャリアという視点があまり入っていませんでした。体調だけ整えて職場に戻っても、元の仕事や働き方が合っていなければ、同じことを繰り返してしまう。だから休職中にこそ、自己理解を深めて、自分のキャリアはどんな方向がいいのかを考えるプログラムを入れているんです。職場復帰支援は、メンタルとキャリアを統合する場面そのものだと思います。
今後の抱負をお聞かせください。
馬場さん:産業領域で働く心理職は少数派で、一人職場でぽつんと働いている方が多いんです。働く人のメンタルヘルスのニーズは大きいのに、人材の供給が追いついていない。そういう方々の研鑽の場やネットワークをつくり、産業領域の心理職を目指す人を支えていく。それが、ライフワークとしてやりたいことですね。
これから学ぶ方へ――資格は武器ではなく、自分と向き合う機会
馬場さんにとって、GCDFはどんな位置づけの学びでしたか。
馬場さん:ちょうどキャリアの転換期に学んだんですね。資格を取って生かすということ以上に、自分のキャリアを見つめ直す、大きな転換点になった。受講しながら、支援者になることと同時に、自分のキャリアをどうするのかをずっと考えていました。一緒に学んだ方々との出会いで、キャリアに対する価値観も広がった。これまでずっと一社で来た自分の世界が、わっと広がった。あそこが出発点だったと思います。
最後に、これから学ばれる方へのメッセージをお願いします。
馬場さん:支援者になるために学ぶ方はもちろんですが、自分のキャリアを見つめ直したいタイミングにある方にこそ、勧めたいですね。資格という武器を作るだけではなく、自分を見つめ直す。自己理解や他者理解、グループでの学びを通じて、自分のキャリアの可能性に向き合ってみる機会として捉えてほしいと思います。最初から決めつけず、揺らぎながら、試行錯誤しながら学んでいく。その揺らぎ自体が、大事なプロセスであり、揺らぎが発生しやすいメカニズムがプログラムに組み込まれているのがGCDFの大きな特徴なのだと思います。

プロフィール

馬場洋介(ばば ひろすけ)
帝京平成大学大学院 臨床心理学研究科 研究科長・教授/日本キャリア・カウンセリング学会 会長
保有資格:キャリアコンサルタント/2級キャリアコンサルティング技能士/臨床心理士/公認心理師/産業カウンセラー/中小企業診断士
大手情報会社で事業立ち上げや人事を経験後、再就職支援の現場を経て大学教員に転身。メンタルヘルスとキャリアの統合的支援を実践・研究している。
帝京平成大学大学院臨床心理学研究科の研究科長・教授。大手情報会社での事業立ち上げ・人事の経験を経て、キャリアカウンセラー・臨床心理士として再就職支援・職場復帰支援の現場に立ち、実務と研究を往復しながら大学教員に転身した。日本キャリア・カウンセリング学会会長。メンタルとキャリアの統合的支援を掲げ、産業領域の心理職の育成にも力を注いでいる。
略歴
※役職は取材時点
撮影/執筆:三宅弘晃
※このインタビューは2026年7月3日に実施されました。
