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- 【企業内キャリア支援のリアル Case4】株式会社リクルートオフィスサポート「キャリア開発は「究極の合理的配慮」――スーパービジョンで支援者を育て続ける、特例子会社の挑戦」
キャリア開発は「究極の合理的配慮」
――スーパービジョンで支援者を育て続ける、特例子会社の挑戦

障がいに応じた配慮を整えることは、特例子会社の前提です。では、同じスタートラインに立ったその先で、一人ひとりのキャリアを支えるのは誰なのか。リクルートグループの株式会社リクルートオフィスサポート(以下、ROS)でキャリア相談室を率いる阿部由紀様(写真中央)は、その問いに「キャリア開発もまた、究極の合理的配慮」と答えました。社内からカウンセラーを養成し、相談室を立ち上げ、スーパービジョンとワークショップの両輪で支援者を育て続ける。そのために、自らもスーパーバイザー養成講座で学んだ。その挑戦の歩みを、CCAの講師・網野千文(写真左)、コンサルタント・市橋靖子(写真右)を交えた座談会でお届けします。
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阿部 由紀(あべ ゆき) 様 |
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網野 千文(あみの ちふみ) |
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市橋 靖子(いちはし やすこ) |
※役職は取材時点のものです。
約15名が受講し、約10名が相談員として稼働
メンバーの逐語録をもとに全員で検討(四半期ごと・3時間)
阿部様主催、市橋がサポーター。メンバーへのアンケートからテーマを設定(四半期ごと・2時間、グループ・スーパービジョンと交互に実施)
学びをワークショップの設計に還元
キャリアコンサルタント(スーパーバイジー)が、自身の面談を指導者(スーパーバイザー)とともに振り返り、支援の質を高めていく専門的な研鑽の場です。ケース記録や逐語をもとに、クライアント理解やキャリアコンサルタント自身の課題を検討します。CCAでは、スーパービジョンの実践力を身につける「CCAスーパーバイザー養成講座」(全15回・約150時間、修了後、試験の合格を経て「CCA認定スーパーバイザー」に認定)を開講しています。
仕事の習熟の先に、「キャリア」という軸を
阿部:株式会社リクルート含むリクルートグループの障がい者雇用を一手に引き受けている特例子会社です。事務、事業領域でグループの業務を受託しています。社員は581名で、そのうち障がいのある社員が約502名。健常者は79名で、むしろマイノリティなんです。
(注1)ROSの社員数・構成は2026年6月1日現在の数です。
阿部:リクルートで営業と制作を長く担当していた頃、会社の勧めでGCDF(注2)を取得したのが、「キャリア」との出会いでした。その後、独立を経て2018年にROSへ。最初は総務系の受託部署でマネジャーを務めました。メンバーは皆、目の前の仕事に真剣に取り組んでいます。その一方で、面談では「このままここにいて、どうなるのか」「この先、私は何をしたらいいのか」という声も聞こえてきました。半年ごとのミッション設定を通じて、一人ひとりを丁寧に育ててきた会社です。ただ、中長期のキャリアを一緒に考える仕組みは、まだありませんでした。「仕事の習熟を積み重ねるだけでは、いずれ頭打ちになる。親会社の環境変化対応も待ったなし。そこにキャリアという考え方を加えませんか?」 2019年、当時の社長にそう提案しました。
(注2)GCDF:国際的なキャリアカウンセラー資格。正式名称は米国CCE,Inc.認定GCDF-Japanキャリアカウンセラー。CCAが運営する養成講習は、厚生労働省認定の国家資格キャリアコンサルタント養成講習でもあります。
阿部:調べた限り、当時はまだ少なかったと思います。入社して分かったのは、障がい者ゆえの難しさはあっても、それ以外に健常者と障がい者を隔てるものは何もない、ということでした。みんな、慣れていないだけなんです。合理的配慮(注3)は、特例子会社として当然整えるべきものです。周囲の音がつらい人はイヤーマフをつけて働く。光が苦手な人は、照明を少し落とした場所で働く。そのうえで、キャリア開発を取り入れることもまた、究極の合理的配慮なのではないかと考えました。配慮によって同じスタートラインに立ったら、その先は会社が後押ししながら、一人ひとりがやりたいことに応じてキャリアを伸ばしていけばいい。実際、「会社は全面的にバックアップするんだから、頑張ろうよ」と声をかけると、スイッチが入るメンバーが大勢いました。リーダーになるなんて叶わないと思っていた人が、「口にしていいんだ」「挑戦していいんだ」と気づく。自分で蓋をしていたのかもしれません。
(注3)合理的配慮:障がいのある人が他の人と平等に働けるよう、過重な負担にならない範囲で行う個別の調整や変更のこと。
阿部:ROSは設立当初から、福祉として利益を求めない道ではなく、事業会社としてきちんと利益を出す道を選んできました。親会社は最大のお客さまですが、だからといって仕事が約束されているわけではありません。ほかのアウトソーサーと同じ土俵で比べられ、ROSに任せる価値を示して初めて選ばれる。その力を磨き続けるためにも、一人ひとりのキャリア自律が欠かせないんです。

社内からカウンセラーを育てる――15名がGCDF養成講座へ
阿部:キャリア研修と相談室の両輪で進める方針にしました。まず研修で、キャリアの基本的な考え方を広く知ってもらう。そのうえで、一人ひとり事情の異なる部分は、相談室の相談員がフォローする。相談員は、社内から養成すると決めました。特例子会社という会社の背景を分かっている人が担うほうが、きっと力を発揮できると考えたからです。CCAのGCDF養成講座を社員に受講してもらい、10人規模の相談室をつくる。その構想を示して、予算をつけてもらいました。2020年から3〜4年かけて15人ほどが受講し、現在は10人ほどが相談員として活動しています。研修後の面談に加え、2年に1回の定期面談で一人ひとりをフォローする体制です。
阿部:もともと「人に関わりたい」「人の成長に貢献したい」という思いを持つ人たちでした。社内には、そういう人がとても多いんです。ただ、どう関わればいいのか、具体的な形はまだ見えていなかった。手を挙げた人たちは、その思いを体系立った学びとして身につける道を選びました。キャリアコンサルタントの資格は、いま彼らの確かな武器になっています。
阿部:上司の皆さんも、ちょうど育成計画づくりに取り組み始めた時期で、まずは半年ごとの計画づくりに力を注いでいました。3年先のキャリアまで一緒に考えるのは、上司だけでは負担が大きい。そこで、中長期のことは第三者が担う。それが相談室の役割ですと住み分けたのが大きかったですね。半期ごとに実施報告をきちんと出す中で、その役割を認めてもらえました。「自分では手が届かないことは、相談室に相談してこい」と部下に声をかけてくれる上司もいます。

一人のケースを、全員で――相談室が選んだグループ・スーパービジョン
阿部:言い出しっぺの私とはいえ、資格を取ったばかりのメンバーを私一人で指導するには限界があります。専門家の力を借りて、まずは相談員としての骨組みをしっかり固めることが大事だと、最初から考えていました。そこに迷いはなかったですね。メンバーは皆さん謙虚で、つい互いに遠慮してしまう。「私なんかが意見していいのか」と考える人たちです。だからこそ、外部の専門家によるSVという、きちんとした場を設けたほうが、真剣に向き合ってもらえると思いました。
網野:メンバー同士のケース検討だけでは、自分の面談の何が良くて、どこがうまくいっていないのかを率直に言い合うのは難しいものです。外部の人間が入れば、客観的に見ることができる。そのうえで、個別ではなく「みんなでやる」SVを選んだのが、阿部さんならではだったと思います。
網野:最初は、指摘を聞いて「そうなんだ」と納得するだけのことが多かったですね。それが回を重ねるうちに、「ここが自分には分かっていないところだ」という課題感が生まれ、他人のケースからも自分の課題を持ち帰るようになりました。そこで最近は、同じ課題を持つ人たちに事前にレクチャーをして、テーマごとに場を組み立てるようにしています。
阿部:当番制で、半期に必ず1本は逐語記録を提出してもらっています。自分のケースを大勢に見てもらうのは、最初はかなり勇気が要ったと思います。網野さんが場づくりを工夫してくださったおかげで、いまではすっかり慣れました。
網野:企業内カウンセラーの難しさは、相談内容によっては自分の事のように感じてしまう事です。同じ会社で働いているぶん、「うちの会社って、こういうことあるよね」と納得して終わってしまいがちで、事情が分かっている人ほど、それが足かせになる。企業内カウンセラーならではのジレンマです。ROSのカウンセラーの皆さんは回を追うごとに、「問題を抱えている相談者自身に向き合う」スタンスの重要性を理解し、「自分はいま、カウンセラーとしてクライアントを受け止めているんだ」という姿勢が、年を重ねるなかで確実に身についてきています。
阿部:自分の経験から心で感じたことを、勇気を出して言葉にする。それを誰一人逃げずにやっているのは、お二人が育ててくれた文化だと思います。
網野:「逃げずに」というより、「逃がさない」だったかもしれません(笑)。でも、やらされている感じはまったくない。ROSの皆さんは必ず「私だったらこう言うかな」と自分の言葉を紡いでくれますし、欠席もありません。誰一人、他人事になっていないんです。常に研鑽する気持ちが良いですね。

「なぜ、それを言わないのか」――もう一つの車輪、ワークショップ
市橋:テーマは毎回、阿部さんがメンバーに取ってくださるアンケートの「もっと何を知りたいか」をもとに決めています。その根っこにあるのは、いつもSVで問われていることです。クライアントが「何とかしたい」と口にしていることに引っ張られすぎず、その人が本当に向き合うべき問題は何かを捉える。そのうえで網野先生は必ず、「あなたはカウンセラーとして、何を伝えたいのか」「では、なぜそれを言えないのか」と問いかけますよね。
阿部:「踏み込みたいのに、なぜそこで踏み込まないの?」と。皆さん、しばらく考え込みますね。
網野:技術は二の次でいい。いまここで言わなければいけないことを、言ってくださいと伝えています。
市橋:その問いに逃げずに向き合うのがSVだとすれば、ワークショップは「実際に言ってみる練習」の場です。これを言ったら、関係が壊れてしまうかもしれない。それでも、言うことも勇気。それがカウンセラーの誠意ではないかと、阿部さんと一緒にお伝えしてきました。
阿部:面談後のアンケートでは「話を聞いてもらえた」という評価が多く、それはそれで大切なことです。でも最近、「自分では気づかなかったことを言ってもらえた」という声が出てきました。
市橋:リクエストに応じて、毎回変わります。たとえば、「障がいのせいでキャリアが描けない」と語るクライアントに、どこまで踏み込んでいいのかを考えるケース検討。「仕事が落ち着いたらキャリアのことを考えます」という言葉を、キャリアドリフトや計画された偶発性といったキャリア理論から読み解く回。相談員としての自分の成長を振り返る回もありました。
なかでも印象に残っているのが、「認知行動療法について知りたい」というリクエストに応えた回です。認知行動療法と聞くと構えてしまいますが、実は、私たちがGCDFで大事にしてきた「言い換え」のスキルは、すでに認知行動療法の技法の第一歩。「あなたはこうおっしゃるけれど、それってこういう気持ち?」という言い換えの応答は、まさにそれ。「あれ、これはよく知っている技法だ」と皆さんに気づいてもらえた回でした。
阿部:メンバーは勉強家で、「コーチングで学んだこれを、面談に応用してもいいですか?」と相談してくる人もいます。学んだことはぜひ活かしてほしい。でも、まずは基礎を大切に、いったん脇に置いておこうね、と(笑)。

そして自ら、スーパーバイザー養成講座へ
市橋:正直、すごいなと思いました。SVですでに十分に学ばれているのに、そこからさらに半年ほど、毎週の講座に自ら飛び込まれた。何を得たかったのか、ずっと伺ってみたかったんです。
阿部:何より、相談室の影響力を高めたかったんです。私は拠り所がないと攻めに出られないタイプなので、スーパービジョンとは何かを、自分自身できちんと学びたかった。学んだことを組織にどう還元するか。自分が力をつけることで、相談室と組織のつながりを強くしたかったんです。ちなみに受講は自費です。
参加してみて驚いたのは、受講生の多くが、学校や就職支援の現場など、企業の外で活躍するキャリアコンサルタントだったことです。企業の提供価値を高めたいという目的で受講していた私は少数派で、最初は話し相手を探すのに苦労しました(笑)。でも、学ぶ内容はまさに私が求めていたもので、本当に良かった。いま私が設計しているワークショップは、ほとんどが養成講座での学びを起点にしています。
阿部:クライアントの言葉の奥にある、カウンセラーとして捉えるべき問題に、メンバーがどう気づけるか。そこに集中したいと思うようになりました。資格を取ったばかりのうちは、どうしても関係構築が中心になります。でも、企業で相談室を運営する以上は成果につなげたいし、課題解決まで踏み込みたい。そこにアクセルを踏めたのは、スーパーバイザー養成講座を受けてからだと思います。
両輪が生んだ変化と、次の一歩
網野:SVで全員が学び、そこで足りない部分をワークショップで補っていく。その流れができてきたことですね。次の課題は、面談のなかで気づきに至るまでに時間がかかっていること。「あ、そこに焦点を当てていなかった」と気づいたら、「では、どうしようか」まで、面談の時間内に進めたい。プロセスを意識したカウンセリングを、改めて皆さんに伝えていきたいですね。
阿部:AIの影響もあって、仕事のあり方が大きく変わり始めています。社長からも「一人ひとりにキャリア自律してほしい」「組織長に、部下のキャリア開発を支える力をつけてほしい」と、明確なメッセージが出ています。相談室では、面談のあとに小さなことでも行動が変わったかを測る「行動変容率」をKPIに置き、60%を目標にしています。面談を受けた本人の満足度は非常に高い一方で、この数字が最近、少し下がってきました。上司の期待が高まるなかで、上司が求める変化と、相談員が捉えている変化との間にずれが生まれているのではないか。それがいま、私が立てている仮説です。
そこでこの半期は、GM(組織長)向けのワークショップも始めました。社内の身近な2つのケースを題材に、「個のキャリア自律と組織成果を両立させる」という組織長の視点を身につけてもらう取り組みです。やってみて見えてきたのは、目の前の課題は語れても、組織として3年後にどうありたいかを描くことは、多くの組織長にとってこれからのテーマだということでした。
網野:マネジャーが「この人に何を期待し、何をしてほしいのか」を言葉にすること。これは多くの企業に共通する、いまのマネジメントのテーマですね。そこでカウンセラーが、気づきから具体的な方策まで一段踏み込めるようになれば、相談室が組織の課題解決を後押しできる。そんな状態がつくれると思っています。

個を通して、会社を強くする――支援者を育てたい企業の方へ
阿部:「ひとりが能力を発揮し、活躍するための支援を通じて、ROSの提供価値を高める」と大上段に掲げました。相談室を、単なる相談窓口で終わらせない。キャリアコンサルタントを育て、一人ひとりの課題解決を積み重ねることが、企業価値を高めることにつながる。そういう位置づけにまで持っていけるか。大切なのは、その矜持を持てるかどうかだと思います。たどり着けるかどうかは分からなくても、まず青写真を描いて掲げること。それが出発点ではないでしょうか。

人を支える人もまた、支えを必要としています。支援者を育てるとは、その支えを仕組みとして用意することだと、私は考えています。キャリアカウンセラーは、人の迷いに寄り添う仕事です。しかしながら、カウンセラー自身が面談を振り返り、自らの迷いを打ち明けられる場がなければ、支援の質はやがて伸び悩みます。
ROS様には、その場が二重に用意されていました。すなわち、一人のケースを全員で検討するグループ・スーパービジョンと、学んだことを実際に言葉にするワークショップです。社内カウンセラーの強みは、会社の事情をよく知っていること。しかしその強みは、共感が強くなりすぎてしまうという弱みにもなりえます。ROS様のカウンセラーの皆さんは、振り返りと実践を重ねながら、その両面と向き合う力を培ってきました。そして何より、阿部様自らがスーパーバイザー養成講座の門を叩き、学び続けている。その背中が、仕組みに血を通わせているのだと感じます。
支える人が支えられてはじめて、その先にいる社員が動き出す。特例子会社という枠を超えて、社内で支援者を育てようとする多くの企業の皆さまに、ぜひお読みいただきたい事例です。



