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ミーティングで意見を述べるシーン

最近、企業で人材育成にかかわる人たちの間で「越境学習」という学習方法が注目されています。越境学習は、企業内に関わらず、個人のキャリア形成にも効果があると言われます。

今回は石山恒貴/伊達洋駆「越境学習入門―組織を強くする冒険人材の育て方―」をベースに、越境学習とは何かについてご説明します。

この記事を読むと、越境学習について理解でき、小さく始めるためのスタートラインに立つことができるでしょう。

越境学習とは

「越境学習入門」によれば、越境学習とは「ホームとアウェイを往来することによる学び」と定義されています。

ホームとアウェイという現象は、海外留学や転勤などわかりやすいものに限らず、もっと身近な場所でも起こっているといいます。例えば、知らない場所に引っ越ししたとき、新しい会社に入社したときなどです。

長年生きていれば、ホームとアウェイの境界を超えたために馴染めなかったり、居心地の悪さを感じたり、誰しも一度は経験してきていると思います。その”アウェイ感”、違和感や葛藤を抱えながらも、なんとかやろうとする感覚が、越境学習の原型だといいます。

出典:石山恒貴/伊達洋駆「越境学習入門―組織を強くする冒険人材の育て方―」日本能率協会マネジメントセンター、2022年

熟達することを意図的にやめる

学習にはさまざまな種類がありますが、仕事をしていく上で身近な学習に「経験学習」があります。

経験学習は、その名の通り経験から学び、自分の専門領域に関して熟達を目指すものですが、越境学習と経験学習では、その先の目指す世界やパラダイムが異なります。

経験学習は熟達することによって、仕事の安定や適応、効率化や高度化などを学べる一方、越境学習は、経験による熟達をあえて一旦停止し、視野を広げる学びです。経験学習とは異なり、固定観念の打破、変革、前提を疑う視野を持つことができます。

行き詰まり状態を打破するためには、あえて不安定、不適応になることを覚悟した上で、越境学習を経験することが大切になっているのです。

越境学習の源流にある学習理論とは

「越境学習入門」によれば、越境学習の源流となった学習理論がいくつかあります。
ここでは、ヴィゴツキーとエンゲストロームの理論をご紹介します。

一つには、ロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーによる「最近接発達領域」という概念です。「ひとりではできないが、仲間と一緒ならできること」があり、それがこどもの発達を先取りするという考えです。

大人の学びで言えば、あえて集団で学ぶことによって自分とは何者なのかを考える、そのアイデンティティを形成していくプロセス自体が学びであるということになります。

フィンランドの教育学者ユーリア・エンゲストロームは「知識経済という環境下で協働の必要性が高まる現代社会においては、単一の活動システムに閉じられた学びは諸領域の分断だ」と考えました。

越境学習が注目されている理由は

決して居心地のよいものではない”アウェイ感”を伴う越境学習。
注目されている理由を挙げてみます。

キャリア形成に効果がある

普段慣れている環境で仕事や生活をしながら、自分の特徴や強みに客観的に気づくのはなかなか難しいものです。

越境学習による”アウェイ感”をあえて体験することによって、実は得意だったり強みだったりすることに客観的に気づくことがあります。
その気づきが、後々のキャリア形成に繋がっていく可能性もあるでしょう。

企業内イノベーションが起きやすくなる

越境学習が注目される理由のひとつに、日本経済の抱える問題があります。
日本は「失われた30年」から抜け出せないまま、多くの企業が今の状況に危機感を抱いています。目下、OJTなどの従来の人材育成方法では新しい商品やサービスを生み出すのはむずかしく、行き詰まりになっているのが実状です。

既存の企業などの枠を超え、越境学習で新たな価値観に出会い、葛藤し、新しいものを生み出すことがその突破口になるという理由で注目されているのです。

中高年層の活性化が促進される

中高年層の中には、所属する会社の価値観に個人の価値観を寄せていき、日々の生活の中心に仕事を据えて生きてきたという方も少なからずいらっしゃると思います。

定年退職などをきっかけに、先の人生をどう生きるか考えるとき、越境学習を経験することで、自分自身が純粋に何に取り組みたいのか、得意なことは何かを知ることができるでしょう。

参考:キャリアカウンセリング協会「キャリア自律を考える ー『越境学習』がもたらす個人と組織への影響とは?ー」(2022年6月)

越境学習は小さく始められる!4つの場を紹介

ハーバリウム作りのシーン

越境学習を小さく始められる場をご紹介します。

家庭で

日々を過ごす家庭の中でも、越境学習はできます。

家事や育児、介護などで何らかの決断が必要になったとき、家族内で意見が異なる場面に総合し、”アウェイ感”を体験したことはありませんか??

副業や兼業で

副業や兼業で普段と異なるコミュニティの中で仕事をすることも、越境学習を始められる場です。

たとえホームと同じ仕事だとしても、関わる人が異なることによって、不安定さや迫害のような経験をすることがあるでしょう。

学習・趣味・ワークを通じて

大人の学びや習い事などでも、越境学習できます。

例えば、キャリアコンサルタント養成講習「GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム」もひとつです。

年代も仕事も住む場所も違う大人が15人程度集まり、約3ヶ月間一緒に学習します。
意見を出し合いながらキャリアコンサルティングの基礎を身につけるプロセスは、まさに越境学習と言ってもよいかもしれません。

参加者全員がアウェイの状態で違和感や葛藤を覚えながら学習を始めます。仲間との関わり合いながらそれぞれが自己変容し、最終的にはアウェイだった場がホームのような感覚になっていくのはまさに学習効果と言えるでしょう。

キャリアコンサルタント養成講習GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム

地域活動を通じて

自治会、NPOなどでの活動も、越境学習として考えられるでしょう。

越境学習を推進するためのポイントは

ふせんを見ながら話す女性たち

個人にも組織にも取り組むメリットのありそうな越境学習、推進するためのポイントをまとめました。

キャリア・アダプタビリティ、4つの要素

越境学習を通じてキャリア形成へ一歩踏み出すなら、キャリア発達の基本概念である「キャリア・アダプタビリティ」つまりキャリアの適応力も意識しておくとよいでしょう。

ここでは、サビカスが提唱した4つの要素をご説明します。

  1. キャリア関心
    個人の職業にかかわる将来への関心を表す、4つのうち最も重要な要素
  2. キャリア統制
    個人が自らのキャリア構築に責任を持っていると認識している
  3. キャリア好奇心
    自分自身と職業とを適合させることに対して、知的好奇心を持ち、探索する
  4. キャリア自信
    より自分に適した教育や職業上の選択を行うために必要な一連の行動にうまく取り組めるという自己効力感

出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック1』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.153-154より引用

キャリアコンサルティングを併用する

小さく始めればよいとわかっていても、一歩を踏み出す勇気はなかなか出しづらいものです。まずはキャリアコンサルタントに相談し、話しながら行動に向けてサポートしてもらうのもひとつのやり方です。

組織での学習環境整備

まずは、どのような変化を目指して越境学習を奨励するのかを明確にしておくことが必要です。越境学習で違和感や葛藤を持って学んできた価値観をホームである組織が受け入れられるように、推進者が越境学習を理解しておくことが大切でしょう。

まとめ

最後に越境学習についてまとめました。

  • 越境学習とは、ホームとアウェイを往来することによる学び
  • 越境学習と経験学習では、その先の目指す世界やパラダイムが異なる
  • 個人のキャリア形成や企業のイノベーション促進に効果があると注目