VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)時代と呼ばれる今の時代は、社会環境の変化がめまぐるしく、将来の予測が困難です。先行きが不透明な時代だからこそ、働く個人は流れに身を任せるのではなく、自分のキャリアについて主体的に考え、継続的に取り組んでいく必要があります。

終身雇用が前提で会社が自分のキャリアを考えてくれる、そんな時代は終わりました。職業人生が長期化し、副業やフリーランスなど働き方も多様化する中で、今在籍する企業に依存せずに自分の人生を設計する、「キャリアデザイン」という概念が注目されています。

今回はキャリアデザインの意味、求められる背景、目的、設計方法について解説します。本記事を読むと、働く個人がキャリアデザインを設計する重要性やその具体的な方法、さらにキャリアデザインを支援する具体的な方法について理解が深まるでしょう。

キャリアデザインに関わる支援者様・支援者を希望されている方、企業担当者様等それぞれに気づきがある内容になれば幸いです。

キャリアデザインとは

キャリアデザイン

キャリアデザインとは、自分が将来どのようになりたいのか、どんな自分でありたいのかをイメージし、働き方や生き方を主体的に設計し、実現していくことです。

「キャリア」とは「個人が生涯を通じた職業選択にかかわる活動・態度と、「働くこと」にまつわる自由時間、余暇、学習、家族との活動などを含んだ個人の生涯にわたる生き方(ライフスタイル)の過程」のことです。つまり、キャリアデザインとは、仕事を核にした自分の人生を設計することを意味しているのです。

出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック1』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.26より引用

キャリア形成、キャリアパス、キャリアプランとの違いは?

キャリアデザインと混同しやすい用語として、キャリア形成、キャリアパス、キャリアプランがあります。ここからはそれぞれの言葉の定義について解説します。

キャリア形成

キャリア形成とは、職務経験や教育訓練の受講等を積み重ねていくことによる、段階的な職業能力の形成を意味します。「キャリア」とは、時間的持続性ないし継続性を持った概念です。キャリア形成とは、「関連した職務経験の連鎖を通して職業能力を形成していくこと」と言えます。

キャリアパス

キャリアパスとは、一つの企業の中で、目標とするポジションや職歴に向かって必要なステップを踏んでいくための道筋を意味します。異動や昇進のルートとも言えます。

キャリアプラン

キャリアプランとは、キャリア形成のために、自身の職歴について目標やその達成のための計画を立てることを意味します。

キャリアパスとの違いは、一つの企業の中での道筋ではなく、異動や転職、独立も含めた職歴の計画である点です。また、キャリアデザインとの違いは、人生も含めた計画ではなく、あくまでも職歴の計画である点です。

キャリアデザインが必要な理由

キャリアデザインが必要な理由

なぜ今キャリアデザインが注目されているのでしょうか。社会経済環境の変化、企業の人事課題の変化、個人の生き方の多様化という3つの側面から紹介します。

社会経済環境の急激な変化

現代では少子高齢化やグローバル化、テクノロジーの進化により産業構造が急激に変化し、市場の拡大、縮小や顧客ニーズの変化が起こっています。また、人生100年時代となり、新卒で入社した企業で定年まで勤め上げ、豊かな暮らしを手に入れるという高度経済成長期モデルは終焉を迎えました。

VUCA時代となり先が見えない世の中となったことで、働く個人が主体的にキャリアデザインを考えることが必要になりました。

企業の人事課題の変化

終身雇用、年功序列といった日本的雇用慣行が崩壊し、人材の流動性が高まりました。企業は即戦力としての人材を常に求め、成果主義や生産性重視の考え方から求める人物像も変化してきています。事業を取り巻く環境変化が激しいため、従来型のロールモデルを示せなくなったという側面もあります。

また、少子高齢化による人材不足が深刻化する中で、離職防止のために従業員のモチベーションやエンゲージメントを強化する必要も出てきました。

個人の生き方の多様化

社会環境や企業の変化により転職が当たり前となり、独立、副業など働き方も多様化してきました。ワークライフバランスを重視する考え方が浸透し、働き方や生き方を考え直す機会も増えています。

従来のように皆が一律に一つの会社で定年まで働くという価値観は当たり前ではなくなりました。働く人がそれぞれ自分らしい働き方や生き方を考え、自己実現していくために、キャリアデザインを考えることが重要なのです。

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キャリアデザインの目的

キャリアデザインを考える目的は2つあります。自分のありたい姿を実現することと、そのためのアクションプランを明確化することです。

自己実現に向けた目標設定

キャリアデザインを考えることで、自己理解を深め、自分はどうありたいのか、どうなりたいのかを明確にすることができます。自分らしい働き方や生き方を見出し、主体的に仕事に取り組むことができるようになります。

目標達成に向けたアクションプラン

キャリアデザインによって自分のありたい姿が明確化されたら、そこから逆算して踏むべきステップが見えてきます。現在、5年後、10年後とどのような目標を立てるか、達成のために必要な経験や自己啓発は何かが明確になります。

何のために働いているのか迷いが生じたり目的を見失いそうになった時も、キャリアデザインを考えることで今の自分のアクションが将来に繋がっていることを実感しやすくなり、モチベーションを保つことができます。

キャリアデザインに必要な要素

キャリアデザインの設計には大きく分けて3つの要素が必要となります。自己理解、仕事上の役割理解、生活で大事にしている役割理解の3つの要素をバランスよく取り入れて考えることが大切です。

興味関心、価値観、能力、適性などの自己理解

どのような仕事に興味関心があるのか、どのような製品やサービスに携わりたいのかといった仕事に対する興味関心を明確にします。また、何にやりがいを感じるのか、どのような時にモチベーションが高まるのか、逆にやりたくないことは何かなど価値観についても理解を深めていきます。

他には、テクニカルスキル(特定の職務を遂行する上で必要となる専門的な知識・技術)、ポータブルスキル(業種や職種が変わっても持ち運び可能な能力)、適性についての自己理解も重要です。

ここで、最も古く職業との関係で人の特徴を概念化したスーパー(Super、D.E)の「職業的適合性」という概念を紹介します。彼は「人と職業との関係のふさわしさを規定する条件」として「職業的適合性」という概念を示しその構造を提起しました。

スーパーの職業的適合性出典:一般財団法人 日本職業協会「キャリア・カウンセリング、ガイダンスそしてコンサルティングへ

今日でも自己理解の内容はこれが基本であり、各項目ごとにそれを調べるテスト、評価の視点、評価法などの手法が開発され現在に至っています。

期待される仕事上の役割

自分の興味関心や価値観だけではなく、組織から期待される仕事上の役割についても理解する必要があります。上司、部下、先輩、後輩、顧客、取引先など自分を取り巻く環境にも目を向けて、期待されていることを整理していきます。

生活で大事にしている役割や活動

職業人としての役割だけではなく、子ども、学生、配偶者、家庭人、親、余暇人、市民など生活の中で大事にしている役割も重要です。長い職業人生の中では、その時々の状況や環境によって、育児、介護、ボランティア活動、地域活動、学び直し、趣味など大事にしたい活動は変わります。

キャリアデザインの設計方法

就職や転職などのキャリア選択を前提とした場合、企業内でのキャリア形成を前提とした場合など、状況や目的によって様々なキャリアデザインの設計方法があります。ここでは具体的なキャリアデザインの設計方法について3つの方法を紹介します。

GCDFの「キャリア・プランニング・プロセス」を使って設計する

GCDFが提唱する「キャリア・プランニング・プロセス」とは、キャリアに関する意思決定をする際に経ると考えられる過程を指します。具体的には「自己理解(Self)」「選択肢に関する情報収集(Option)」「統合・意思決定(Match)」「目標設定・行動(Action)」のプロセスになります。

キャリアプランニングプロセス出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック1』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.28より引用

自己理解(Self)

職業への興味関心、自分の価値観、抱えている問題などに関する情報を収集します。スキル、適性、パーソナルスタイル、学習スタイル、好ましい職場環境、個人にとっての現実(育児の必要性や家計など)、役割、将来の希望や目標も含まれます。

例えば、転職を考えた際であれば、次の会社に自分が何を望むのかを明確にします。今の仕事の経験を活かしつつ新たな仕事に挑戦できる、裁量権があってフラットな社風である、在宅勤務ができる、年収アップが見込めるなどです。自分の価値観や、その時に置かれた状況に応じて、これらの要素に優先順位をつけることも大切です。

選択肢に関する情報収集(Option)

職業や仕事内容、経済動向、職業や仕事内容に求められる要件・スキルなど、自分がとり得る選択肢に関する情報を収集します。

例えば、自分が希望するような仕事は存在するのか、どのような経験やスキルが求められるのか、年収や働き方などの条件の相場について情報収集します。求人サイトを閲覧する、転職サイトに登録してスカウトを待つ、転職エージェントに相談するなどの行動を通して、どのような選択肢があるのかを確認します。

統合・意思決定(Match)

可能性の確認、自分にとっての価値の評価などによって、長期・短期の選択肢を選びます。例えば、その選択肢をとった時に起こり得ること(望ましいことおよび望ましくないことなど)、その選択肢をとる際に障害となること、その選択肢をとるにあたって必要な準備について情報を収集し、選択します。

例えば、転職先の方向性として大手企業でこれまでの経験を活かすような方向と、ベンチャー企業で未経験分野にも挑戦するような方向があった場合、それぞれのメリットとデメリットを整理し、自分の価値観と照らし合わせて検討します。この際、一般論や他者の意見ではなく、自己理解で収集した情報を重視して検討することが大切です。

目標設定・行動(Action)

目標を設定し、目標達成のために必要なステップを考え、行動に移します。例えば、得られそうな協力や支援、目標達成にあたって考慮しておくべきことを考え、行動します。

転職の方向性が決まったのであれば、いつまでに転職を実現するか目標を決め、そこから逆算して内定獲得、面接、応募、レジュメ作成のスケジュールを計画し、実行します。転職活動のサポートをしてくれるサービスを利用したり、現職で円滑に退職できるよう引継ぎの準備を進めておくなど、より目標達成が実現できるように行動します。

厚生労働省の「キャリア形成のための6つのステップ」

厚生労働省は2001年に労働者のキャリア形成支援のためのキャリア・コンサルティング・マニュアルを作成しました。その中で、キャリア形成は基本的に次の6つのステップで構成されていると説明しています。

  1. 自己理解
    進路や職業・職務、キャリア形成に関して「自分自身」を理解する。
  2. 仕事理解
    進路や職業・職務、キャリア・ルートの種類と内容を理解する。
  3. 啓発的経験
    選択や意思決定の前に、体験してみる。
  4. キャリア選択に係る意思決定
    相談の過程を経て、(選択肢の中から)選択する。
  5. 方策の実行
    仕事、就職、進学、キャリア・ルートの選択、能力開発の方向など、意思決定したことを実行する。
  6. 仕事への適応
    それまでの相談を評価し、新しい職務等への適応を行う。
出典:厚生労働省「キャリア・コンサルティング技法等に関する調査研究報告書の概要(労働者のキャリア形成支援のためのキャリア・コンサルティング・マニュアルを作成)

なお、個人のキャリア形成は、これを長期的に見た場合、上記の6ステップが職業生涯の節目、節目において繰り返される中で、年齢とともに知識・経験は広がりを見せるとともに、専門性は深まっていくもの、としています。

企業でのキャリアデザイン研修

企業で行われるキャリアデザイン研修は、概ね以下のようなステップで行われます。対象年齢や目的によって、重きを置くポイントや実施するワーク内容が変わります。例えば、対象年齢が上がるほど、マネープランやライフイベントにまつわる内容が増えます。

(1)キャリアデザインの意義を理解する:キャリアの意味、キャリアデザインの必要性を理解する
(2)自己理解を深める:仕事の価値観、モチベーションの源泉、能力、コンピテンシーの特性、強み、やりがい、生きがいなどを考える
(3)環境理解を深める:会社で求められる役割、能力、姿勢、会社以外の利害関係者からの期待、今後のライフイベントなどを考える
(4)未来のビジョンを考える:長期的視点でありたい姿やなりたい自分をイメージする
(5)具体的な目標とアクションプランを立てる:3年後、5年後、10年後の目標を設定し、目標達成のために必要な行動を明確化する

キャリアデザイン支援施策の例

キャリアデザインを設計する際に自分の頭だけで考えていると、思考が広がらない、深まらない状態となり、行き詰まってしまうことがあります。また、一度キャリアデザインを考えたものの、作って満足してしまい、その後活用されないということもあります。ここではそのような状態を防ぐためのキャリアデザイン支援策について紹介します。

キャリアコンサルティング

厚生労働省は「企業においては、キャリアコンサルティングを通じて、社員の人材育成(職業能力向上)や若手社員の定着支援など、特定の社員層に関する課題の解決に結びつけることが可能」として、企業におけるキャリアコンサルティングの導入を促進する様々な施策を行っています。

社内にキャリア相談室があり、キャリアコンサルタントに相談できる仕組みを整えている企業もありますし、社内に専門の組織がない場合も、キャリア形成サポートセンターのような外部の専門機関を利用してキャリアコンサルティングを受けることができます。

参考:キャリア形成サポートセンター

また、キャリア面談として直属上司や人事部と定期的に、中長期的な目線でキャリアの方向性、課題や悩みを明確にし共有する場を設けている企業も多くあります。

キャリアコンサルティング、キャリア面談ともに、一度きりではなく定期的に行うことがポイントです。変化の激しい時代だからこそ、せっかくのキャリアデザインが絵に描いた餅にならないよう、健康診断を受けるように自分のキャリアデザインを見直す機会が大切です。

ここで、企業内でキャリアコンサルティングを受けた人の実際の声を事例としてご紹介します。

仕事上の利害関係がないキャリアコンサルタントに、自らの仕事について率直に話すことによって、かえって今の仕事への肯定感を持てました。また、仕事の捉え方を広げるきっかけになりました。

自分の仕事を第三者に説明することは、日々色々なことが起きる中でも、何を目指してやっているのかを整理でき、初心に立ち戻る機会になります。目の前で行き詰まっていた業務も、社会貢献につながる仕事なのだと再認識でき、改めて小さな一歩から取り組めるようになりました。

また、キャリアコンサルタントとの対話の中で、社外の情報や動きにも目を向けてみると、新たに挑戦してみようと思える仕事にも気づけました。

翌年も同じキャリアコンサルタントとお話しすることができました。あらかじめどのような方かわかっている安心感で、前回同様、今感じていることを率直にお伝えしました。

目標達成とは異なる視点で仕事を振り返る機会は、達成・未達成で終わりではなく、自分自身がどうありたいか、自分にとっての今の仕事を見つめ直す貴重な時間です。面談ルームを出るときは「頑張って!」と優しく背中を叩いて送り出していただいたような気持ちになり、また今年も頑張ろうと思えてきます。

キャリアデザイン研修などのワークショップ

従業員のキャリアデザイン設計を支援する施策として、キャリアデザイン研修などのワークショップを取り入れる企業も多くあります。研修として複数の参加者がいることで、個人ワークの結果を共有したり、グループで話し合いフィードバックし合うなど、より気づきを得られ、視野を広げることもできます。

キャリアデザイン研修は、一度きりの研修で終わらせるのではなく、研修の前後に面談を行ったり、定期面談として研修後も継続的に面談を行うことで、より効果を上げることが可能です。

厚生労働省は、「キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み」として、セルフキャリアドックの導入推進を進めています。

セルフキャリアドックでは、まずキャリア研修を行います。集合形式で研修を行うことで、多くの従業員に効率的にキャリアを考えるきっかけを提供できます。次に従業員とキャリアコンサルタントが一対一で面談を行うことで、個別従業員の課題を整理し、解決を支援していきます。最後にフォローアップとして、組織全体で個別従業員および組織の課題を解決していきます。

参考:厚生労働省「企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ

社内公募制度や自己申告制度

最後に、従業員のキャリアデザインを支援する人事制度について紹介します。例えば社内公募制度では、人材を求める部署が社内で募集を行い、そこに従業員が自らの意志で自発的に応募することができます。自己申告制度では、従業員が異動や転籍、将来のキャリアの希望、自己評価などを企業側に自ら申告することができます。

企業内の様々な仕事を知ることでキャリアの選択肢が広がります。希望するキャリアパスの実現に向けて利用するのもよいでしょう。

まとめ

本記事の要点は以下の5つのポイントです。

  1. キャリアデザインとは、自分が将来どのようになりたいのか、どんな自分でありたいのかをイメージし、働き方や生き方を主体的に設計し、実現していくこと
  2. 「社会経済環境の変化」「企業の人事課題の変化」「個人の生き方の多様化」からキャリデザインの重要性が増している
  3. キャリアデザインに必要な要素は「自己理解」、「仕事で期待される役割」、「生活で大切にしている役割や活動」
  4. キャリアデザインの設計方法は状況や目的によって様々なフレームワークが存在する
  5. キャリアデザイン支援施策としてキャリアコンサルティングやキャリアデザイン研修、人事制度がある